Se connecter頭上で人の気配がした。普通は頭上で気配なんてあり得ないのは解ってるけれど、この世界だとこの状況がごくごくまれにある。今回は一体どんな奴?寝ているふりをしながら、毛布越しに姿を確認すると、そこには珍しい程に美しい女の子が異国の服を着て回転していた。生憎と私に【迷い人】の声を聞く事が出来ないから、何をしているのか、何を叫んでいるのか判断はつかないが。回転して回転して最終的には屋根をすり抜けて出て行ってしまった。「…一応、リョウイチに報告しないといけないわね…はぁ」ハッキリ言いましょうっ!めんどくさいっ!最近リョウイチがいつも以上に面倒なのよね。やたらと花をくれるし、いくら華巫女だからって私が花好きとは限らないんだけど?そう言えば、花以外にもプレゼントくれる回数も増えたっけ?……服や宝飾品が多いけど…クローゼットに入らないからこんなにいらない。……何だか鬱陶しい。朝だと言うのになんでこんな鬱鬱としなきゃいけないのよ。起きよう。起きてさっさと今日の仕事をこなしましょう。毛布を剥いで、ベッドの脇に足を降ろして立ち上がる。必要な準備だけをして、部屋を出た。一歩歩くたびにシャランと腕に嵌めたブレスレットがぶつかって音を響かせる。寝室を出て軽く朝食のパンを10個食べて家を出た。片づけ?後でするわ。多分、きっと。家に鍵をかけて、外に出て数歩歩くと、目の前を歩く黒髪が目に入った。この世界で黒髪は珍しく直ぐに誰だか分かった。「ショウコっ!」名を呼ぶと、驚く事もなく顔だけこちらに向けてにっこりと笑った。「おはよう、カオリ」「おはよっ」少し足を速めて隣に立ち並んで歩く。「どうしたの?いつもこの時間はまだご飯食べてる時間じゃない?」「そうなんだけどね。部屋に迷い人が出て。リョウイチに報告しなきゃって思って」「あぁ、そういうこと。そうよね、そうじゃなきゃカオリが早起きしてリョウイチ様に会いに行くなんて事あり得ないものね」「あり得ないは言い過ぎじゃない?ただちょっと、人より多く寝て、人より多く食べて、人よりリョウイチの扱いが雑なだけよ?」「それだけあれば十分だわ。リョウイチ様ももう少しカオリの人となりを学ばないと、落とすに落とせないわよね…」「うん?何か言った?ショウコ」「いいえ?空耳じゃない?カオリもすっかりボケたわねぇ」「ちょっ、
屋根をすり抜けて、家の中へと戻ると、棗お兄ちゃん曰く、リョウイチさん?って人が何かを書き綴っていた。 『リョウイチ』 棗お兄ちゃんが呼ぶと、戻って来た私達に気付いたリョウイチさんがこちらを見て微笑んだ。 「お帰り。話は出来た?」 『うん。出来たよ。と言っても僕が知っている情報と鈴が知っている情報に大差はなかったけどね』 「ハハッ。それはそうかもしれないねっ。所で、そろそろそちらのお嬢さんの事を聞いても?」 はっ!?そうだったっ。私まだ自己紹介してないっ。 『申し遅れました。改めて、白鳥美鈴と申します』 『僕の妹だよ』 「妹?…それにしては」 『あぁ、似てないのは仕方ないよ。血は繋がってないんだ』 「へぇ~。成程。それでか~」 『ふみ?』 何がそれでなんだろう? 首を傾げてしまう。 するとそんな私の姿を見てリョウイチさんは微笑んだ。ほんわかと微笑む、その笑い方…どっかで見た事があるような…? どこで見たんだろう? 誰かに似てるとか? だってこんな明らかな異世界に来た事ってないし。 ふみみ…?誰に似てるんだろう?むむー…全く思い出せないっ! 「それで?二人は恋人同士なの?」 『そうだよ』 「………いいなぁ」 『?、もしかして、リョウイチさん。好きな人いるのっ!?』 「うん。実は」 少し顔を赤らめて微笑む。やっぱり既視感があるんだけど、今はいいや。それよりも、 『詳しくっ!』 『…鈴は、ほんと昔から恋バナ好きだよねぇ』 『三度の飯のおかずになるくらい大好きですっ』 椅子には座れないので、正面に浮かびながら正座する。 『相手はどんな人なの?』 「どんなって…美人で、強くて、優しくて、強くて、微笑んだ顔が可愛くて、それでいて強いんだっ」 うん。…気の所為かな? 強いって単語が三回程出て来たような? や、これは彼が日本語を間違えて話している可能性がないとは言い切れないしっ。 『えっと、もう一度聞いても良い?その、詳しく』 「勿論っ」 『どんな風に美人な人なの?』 「そう、だな。…生命力の溢れる美しさがあって、強くて」 『ふむふむ』 健康美人、って感じなのかな?だとしたら強いってのも納得出来る? 「それから、自分より弱いものに手を差し伸べる優しさがあって、強くて」 『ふむふむ』 って事は、こう
事のおこりはきっと二週間とちょっと前。 僕達がこうして飛ばされた理由を語る前にそのもう少し前の流れから説明しようと思う。都貴社長との会食があったあの日。 鈴は間違えてお酒を飲んでしまい、僕と葵は会食の部屋に呼び出された。 そこには鴇兄さんが片手であぎあぎと腕を齧る美鈴を抑え、都貴社長とその息子を睨みつけている姿があった。 鴇兄さんがあんな冷え切った瞳をして睨むと言う事は余程の事があったんだと察しが付く。 慌てて駆け寄ると、都貴の息子が青い顔をしてその場を逃げだした。逃がすかと追い掛けようとしたが、鴇兄さんの待ったが入った。 「あいつは俺が追う。棗、お前は美鈴を頼む。葵はここの後始末を」 「解ったっ」 「了解だよ、鴇兄さん。気を付けて」 僕は鴇兄さんから鈴を受け取り、そのまま背負う。 「えへへ~、棗お兄ちゃ~ん」 うん。完全に酔っぱらってる。一方葵は都貴社長と対面して笑顔で威圧。こう言う時、葵は素直に凄いと思う。どんなに年上の人間でも、自分が認めない相手には一歩も引かない。そして容赦がない。その容赦のなさは多分鴇兄さんや鈴以上だ。だからこそ、一度認めた相手にはどこまでも優しいんだけどね。 鈴を背負ったまま、視線だけで葵に帰る事を告げ、僕はその部屋を後にした。 料亭を出て、真珠さんと会う。どうやら車は鴇兄さんが乗って行ってしまったらしい。 代わりの車を用意してくれると言っているが…酔いを醒ます為にも少し夜風に当たらせた方が良いかも知れない。 僕は真珠さんの申し出を断り、背負ったまま歩いて帰る事にした。 幸い、鈴は凄く軽い。片腕で持てると断言出来るくらいには。だから背負って帰るのになんの問題もない。 のんびりとゆっくり帰路を歩く。 「なつめ、おにいちゃん。ぎゅー」 首に回った腕に力が込められるけど、痛くも苦しくもなくて、ただただ微笑ましい。そして可愛い。 どうやら鈴は酔っぱらうと可愛さが上がるらしい。すれ違う男達がこちらを見て顔を赤らめている。うん。見るな。 ギリッと睨みつけると、蜘蛛の子が如く散っていく。 「なつめ、おにいちゃん…」 「うん。どうしたの?鈴」 「しゅきぃ…」 呂律が回ってない。それでも好きって言ってくれたのは解ったから。僕は苦笑しつつ、僕も好きだよと告げる。 僕と鈴の【好き】には大きく違いがあると分
※ このお話は本編である『乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…』の三十一話から続くお話です。まだ本編をお読みで無い方はまずは本編からお楽しみください。目を覚まして、視界に映ったのは見知らぬ天井。一体ここは何処ーーーっ!?天井は木っ!床は木っ!ドアも木っ! 完全に私の部屋じゃないっ!!ここは何処ーーーーっ!?……や、待て私。落ち着け、私。 まず確認すべきは、私の存在だよね。だって、確かに私の視界には天井が映ってるよ?ただね?近すぎだよね? 手を伸ばせば、触れそう。 ほーら、手を伸ばして…そうすれば手がすり抜けて…えええっ!? 手が、腕が透けてるーっ!? なぁーんだ、私今霊体なんじゃーん、納得………出来る訳ねぇわっ!! ふみーーーっ!! どゆことーっ!? ここどこなのーーーっ!? 私死んだのーっ!? ……もう一度、落ち着け私。心を落ち着けて。くるっと体を反転させてみよう。 あれ…?ベッドに誰か寝てる? 誰だろう?あの女の人。金髪ウェーブ?かかっている毛布越しにも凄くスタイルが良さそうなのが解る。顔見えないけど、きっと美人さんなんだろうなぁ。 あれ?って事は、私不法侵入してるの?この女性の部屋に? 突然部屋に浮いてるって事?それはどうなのー? ここが何処かは今一まだ理解出来てないけど、雰囲気的に、なんだろう。こう…古代ギリシャ建築、って言うのかな?中世より前の…そうそう、例えて言うなら漫画とかで見る異世界物の神々の時代、見たいな、ギリシャ神話、見たいな?感じだ。 よしっ。折角の幽体なんだから、この部屋から出て周辺を調査してみようかな。 ここにこうして浮いているだけじゃ何も解決しないしねっ! っと、これどうやって動くんだろう?手足は動かせるんだけど、移動となると話は別だよね? 空中歩いてみる? 浮かんでるんだし歩くと言うよりかは泳ぐ? 思考錯誤の上、どうにかこうにか移動感覚を掴み、私は上昇してみる。 案の定天井をすり抜けて、外に出た。キョロキョロと辺りを見渡してみる限り、私の想像は案外間違いではなかったみたい。 木より石や岩が多い。 一般的な家は木で。公共の建物は石を削って建てられている。 さて。どうしようかな? 私は何処に行ったら良いんだろう? 状況は掴めないけど、私は俯い
出張が続きに続き、今日こそは早く帰れるはずだ!そう希望を込めて仕事へ向かっていたが、まぁ、そうは問屋が卸さず。今日も今日とて、接待飲みが待っていた。そもそもこのご時世に接待飲みが未だにあるのがおかしい。ただでさえ忙しいんだから、下らない事で時間を潰させるなっ!そう叫びたいのだが、そうもいかず。俺は素直に接待を受け、何とかオッサン共の二次会の誘いを振り切って銀川の用意した車に乗りこみ、後部座席に体を沈めた。「…少し寝る。着いたら起こせ」「かしこまりました」今日は絶対に家に帰る。帰って美鈴の顔を見るんだ。ネクタイを緩めて、俺は腕を組みゆっくりと瞼を降ろした。暫くして体が揺すられる。「龍也様。龍也様。到着しましたよ」「ん?あ、ぁ、悪い」目を軽くこすって、開けて貰ったドアから鞄を持って降りる。「では、本日はこれで失礼いたします」「あぁ。明日は六時に頼む」「かしこまりました」言いながら俺は真っ直ぐ家の玄関へと向かう。念の為に時計を見ると、時間はまだ夜の九時。ワンチャンあるかもしれない。そう思い、玄関のドアを開けるとそこには、「お帰りなさいっ!父上っ!」パジャマ姿の我が子の姿があった。きっと風呂上りなのだろう。両手を広げて駆け寄ってくる我が子を抱き上げると、ほかほかだった。「お帰りー。龍也さん。珍しく早く帰ってきたねー?」同じく風呂上りの美鈴がお腹を支えながら歩いてくる。「お、おまっ、なんで歩いてるんだっ!?」「え?じゃあどうやって出迎えるのよ?スライディングでもしろと?」「そうじゃないって解ってて言うなっ!臨月なんだぞ、お前っ!」「うん。そうね」「だったらもっと慎重にっ、家政婦はどうしたっ!?」「お仕事の時間は終了だからねー。ちゃんと残業させずに帰って貰ったよ?」「させろよっ!残業っ!金は出すからっ!」「いけませんっ!ブラック企業、ダメ、絶対っ!」「ああーもう!」なんでこいつは毎度毎度俺の言う事を聞かないんだっ!兎に角、美鈴を暖かい居間まで連れてかないとっ!「美鈴っ。俺が手を貸すから」「さー、居間に戻ろうねー?」俺の言葉は無視かっ!「父上?母上をあまり怒鳴っちゃ駄目ですよ?」「うぐっ」怒鳴りたくて怒鳴っている訳じゃない。と言うかそもそも怒鳴ってない。心配してるだけだ。俺を無視して
「ハニーっ!!」「ダーリンっ!!」ガランガランッ。鐘の音が消されるくらいの声で愛を伝えあっている二人を私達はとぉーい目で眺めていた。今日は結婚式だ。…………樹財閥の幹部社員の。じゃあ最初の声は何?ってそれは勿論、桃と巳華院くんの声である。で、何で桃と巳華院くんの言葉が聞こえるかと言うと。隣で、「いつかこんな結婚式がしたいねー」「そうだねー」「でも私は神社、和風でもいいなー」「私もそう思うー」「じゃあ、二つやっちゃう?結婚式なんて何回あってもいいよねー?」「そんな事したらダーリンの格好良さが皆に伝わっちゃう」「それを言ったら私だってそうだよー」「ダーリンっ!」「ハニーっ!」ぎゅー。って流れが隣で繰り広げられているからである。「おい、美鈴。主役を食うなって言ってやれよ」「樹先輩こそ言ってあげてよ」「いや、無理だろ。あれ」「うん。無理だよね。あれ」私と樹先輩は再びとぉーくに目をスッ飛ばした。「…さて。俺の役目は果たしたし。俺は行くが、美鈴はどうする?」「皐月さんのお見舞い?行く行く」結婚式に顔を出した事で義理は果たせたと、私と樹先輩は盛り上がってる二人に後を任せて会場を出た。樹先輩の車に二人で乗り込んで、私がシートベルトをしたのを確認して樹先輩が車を発進させる。「美鈴。次の会合なんだが…」「だから、何度も言ってるけど、この会社は絶対、専属契約しておいた方がいいよ。二年、ううん、もしかしたら今年中にヒット商品を出すよ」「……だが、あそこの社長は…」「大丈夫っ!樹先輩のお尻触られても私は痛くも痒くもないよっ!どやっ!」「お前はなっ!」「あははっ。冗談だって。大丈夫。私もこの会合には顔出すよ。丸め込もう」「……はぁ、分かった。やるからには徹底的にやるぞ」「おーっ!いだっ」「お前、車内だって忘れて思い切り、手あげただろ」「うんっ!」「あほか」丁々発止しながら、それでも互いに笑いながら私達は病院へと向かった。何で病院に向かっているのか。それはさっきの会話で出て来たとおり、皐月さんが入院しているからだ。何で皐月さんが入院しているのか。これは樹先輩から後で聞いた話なんだけど、皐月さんはあの都貴静流って奴に刺されたらしいんだ。そもそもね?そもそもどうして樹先輩も皐月さんも都貴家にいたんだろう?って当然思うじゃない?
「……け…ぃちゃ…」 遠くから声がする。 「…すけおにぃちゃん」 姫さんの声。 賭け、だった…。 姫さんを狙ってたアイツの力を逆に利用するには金山さんに頼むしかなかった。 けれど、真っ暗な闇しかない。 これはやっぱり失敗したのだろうか。 ……けどそれならそれで姫さんに会える。ならそれでも…と、そう思ってはみたものの…。 あかん、ね。 こんな状況で姫さんに会ったら、きっと怒られる。 俺は俺が出来る事を全てやりきらないと。それこそお姉達にもしばかれる。 俺は……。「…奏輔お兄ちゃんっ!」遠かった声が直ぐ近くで聞こえてハッと目を覚ました。 「立ったまま寝るなんて、奏輔
「金山さん。貴方にしか出来ない俺の唯一の願い。それは…俺を殺して下さい。お願いしますっ」 言葉を失うと言うのはこんな時に使う言葉だったのだろうか。これまで生きてきて、ここまで度を超した願いを言われたのは初めてだ。 そんな依頼をした彼を私が初めて見たのは、鴇坊ちゃまの様子を見て来いと良子様に指示された時だった。 あれはまだ彼らが小学生の時だったか。 いつも少し斜に構えていた鴇坊ちゃまが楽しそうに遊んでいた姿を見て、良いご学友が出来たのだと喜んだものだった。 その鴇坊ちゃまや佳織奥様、そして美鈴お嬢様が亡くなったと予想外の事を聞かされたばかりか、その上鴇坊ちゃまのご学友である嵯峨子様を
部屋に帰りついて、俺は即パソコンに入っていたデータを漁る。 自分が整理しているデータだ。そんな時間がかかることなく目的のデータは見つかった。 (これさえあれば姫さんとまた会えるっ) やっぱり誠さんに会いに行って正解だった。 やっとだ。やっと見つけた。姫さんと会える手段を。 あまりの喜びに泣きそうになるが、まだ今は泣く時じゃない。 この方法で会えたとしても、絶対に俺はまたあの男と対峙する事になる。 その時にはもう負ける訳にはいかないんや。絶対に姫さんを守らなあかん。失敗は絶対出来ん。 アイツを、鴇にも佳織さんにも、そして姫さんにも、倒させる訳にはいかない。悪縁は繋げるのではなく
声を潜めて、ジッと様子を窺う。呼吸音すら今は煩わしい。 耳を澄ますと、足音が複数聞こえてくる。 誰かがいる? ここを探り当てた? 探り当てれるとしたら…あいつらしかいない。 だとしても、こんだけ建物が揺れるって事は……誰かと争ってる? 誰か?と考えるまでもない。 透馬達が争うとしたら佳織さん以外いない。 佳織さんを狙う理由は一つ―――姫さんの奪還、だ。 姫さんとやっとここまで来たんだ。 やっと姫さんを助ける道が見えて来た所なんや。邪魔されて堪るかっ。 姫さんは俺と一緒に生きたいと言ってくれたんや。 佳織さんには悪いが、頑張って貰わなあかん…。 あいつらかて、佳織さん